【匠の皿 vol.35】「365日の或る日の煮麺」赤坂 渡なべ 店主 渡邊 雄二 氏

 
コース料理の最後をご飯でしめるのは、日本料理くらいでしょう。私のお店には海外からいらっしゃるお客様も増えていますが、鯛茶漬けや炊き込みご飯などを出しても、あまり受け入れられませんでした。それならば麺にしよう、海外の方にも人気のラーメンのような麺料理はどうかと考えてできたのが、この「365日の或る日の煮麺」です。
 

 
スープはその日に使う食材からつくるので、毎回違った仕上がりに。「365日の或る日」という言葉には、そんなニュアンスを込めています。お店ではスチームコンベクションを使いますが、今回は鍋を使って調理します。
 
仕込みの時に出るアラや肉の切り落とした部分、野菜の皮などをまとめておきます。魚は血合いなどをきれいにしてから霜降りにし、さらに優しく洗って臭みのもとになるぬめりを取り除きましょう。
 

 
今日はひき肉を用意しましたが、牛すじを使うこともあります。野菜で大切なのが、ごぼうです。アクが強い野菜というイメージが強いですが、実は他の食材のアクを吸収してうまみを出す野菜なので、このスープには欠かせません。
 

 
昆布を一番下に入れ、全ての食材とミネラルウォーター、純米酒を鍋に入れ、内臓を除いたいりこ、深い味わいを出す厚削や干ししいたけも加えます。鍋を火にかけ、沸いたらお湯が回るくらいの弱火にします。
 
アクをとりながら2時間ほど煮たら常温まで冷まして、ざるとクッキングシートを重ねたボウルに注いでそのまま放置し、ゆっくりと濾していきます。そうすることで雑味がなく透き通った、味も見た目も美しいスープに仕上がります。
 
私の店では定休日明けの火曜日につくり、常備するようにしています。仕込みの時にカウンターにバットを出しておいて、魚のアラや野菜の皮などが出たらその都度入れるようにしておけば、まとめる手間はかかりません。スチームコンベクションを使う場合、食材を入れて5時間ほど加熱しますが、その間はスチームコンベクションに任せておけますし、空いたガス台で他の仕込みができます。人材不足や時短などが課題となっていますが、その対処に、限られたスペースやマンパワー、時間をいかに使っていくかを常に考えておくことは大切でしょう。
 

 
太白油と黒コショウ、「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」を入れた器に、出来上がったスープを注ぎ、ゆでた麺を入れて整え、青味を飾ります。今日はミニ青梗菜を使いました。味つけは醤油と、野菜から出る甘味だけ。魚の塩味で醤油の量は調整します。
 

 
「ヤマサ重ね仕込みしょうゆ 本懐石」は、完成度が高いんです。香りや味のシャープさを失わないように、手を加えず、炊き立てご飯や海苔につけて食べるくらいがちょうどいい。だから、このメニューでも醤油に火を通しません。太白油は香りづけと素麺の表面に膜を張ってのど越しをよくするために入れ、黒コショウには味のアクセントという役割があります。ラーメンのような仕上がりなので、海外の人も受け入れやすいようです。お酒を飲んだ後の2軒目としてお店に来てくださったお客様にも好評ですね。
 
私は「目指すのは料理より美味しいもの」と考えています。この言葉自体は、縁あってお世話になった親方の著書の帯にあったものですが、親方の心遣いやそのお店の居心地のよさを、まさに表現している言葉だなと感心しました。私は登山をしますが、山に登ると、人は「空気が美味しい」って言ったりしますよね。空気に味はないから「気持ちいい」という感覚を「美味しい」と表現しているのだと思うんですが、それはつまり、気持ちいいと美味しいは同じジャンルだということ。料理が美味しいお店でも、不潔だったり雰囲気が悪かったりすれば、その美味しさも半減してしまいます。この言葉に詰まっている、座って食べて、感じてもらいたい「美味しい」と「気持ちいい」を、私は常に追い求めていきたいです。
 

 
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