―ますます深刻になってきた飲食業界の人材不足に、どのように対応されていますか?
渡邊様:以前は何年かに1度、求人を行っていました。でも、この仕事は立ち仕事でキツイもの。昔のように厳しく指導するわけでなくても、早いタイミングで辞めてしまうことが続いたので、現在は求人をしていません。「人材不足上等! 俺一人でも回してやるぜ!」というくらいの気概でいます。今、私のお店で働いてくれているのは、私の理念や目指すものに賛同して、自ら考えて動いてくれているメンバーばかり。仕事がスムーズに進み、コミュニケーションコストの効率化ができています。人材不足であっても、その状況に合わせてお客様の数を制限したりメニューを調整したりするほうが、対策としてはよいと考えています。
ただ、人材不足対応の苦肉の策として、予定よりもかなり早く来店されたお客様がすぐに入店できなかったり、営業時間中に電話に出られなかったりしているのは、準備やおもてなしのためとはいえつらいところです。
三浦様:私が働いていたお店でも、お客様の数を制限することはありました。それはお客様の満足度を高めるために必要なことだと思います。私はサービスからキッチンに参入してきた立場ですが、キッチンは確かに3K(きつい・汚い・危険)。でも、そのイメージを変えようとは思いません。厳しさの中で頑張るからこそ生まれる美味しさはありますし、私もそのための覚悟はできています。ただ、私自身が今後どのように仕事をしていくかを模索していて思うことなのですが、今後はいろいろな人がいろいろな働き方やケースを創造し、前例となることで、飲食業界での働き方の選択肢を増やしていくといいのかもしれませんね。

渡邊様:人材育成という面で感銘を受けたのが、以前働いていたお店の料理長が言った「知らないことを教えるのが仕事」という言葉です。そこから、私と同郷の山本五十六の名言「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」を体現するようにしています。教え育てていけば、自分も楽になるじゃないですか。
三浦様:渡邊さんのようなリーダーがいるといいですね。飲食業界にも「働き方改革」の波がきていて、もっとがんばりたいのにがんばれなかったという経験があります。悔しかったけれど、そんな中でも技や知識を吸収し成長していく人はいます。労働時間が制限されても、親方や師匠、先輩と「こういう自分になりたい!」といったコミュニケーションはとれるので、時間が無いのではなく時間をコミュニケーションに使う時代になったととらえるのが、より建設的な考え方なのでしょう。
―今回作っていただいたメニューにも人材不足や時短などは影響していますか?
渡邊様:今回のメニュー「365日の或る日の煮麺」は、コースの最後に出すことを想定し、シンプルに仕上げた料理です。私のお店には海外のお客様も多いのですが、コースの最後をごはんで〆るのは日本くらい。鯛茶などを出してもあまり受け入れられませんでしたので、ラーメンのような麺を出すことを考えたんです。味つけに使うのは「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」ですが、完成度の高い醤油なので余計な手は加えません。
仕込みの時にカウンターにバットを出しておいて、仕込みで出た魚のアラや野菜の皮などをどんどん入れ、あとはスチームコンベクションに任せておけば、休憩する頃にはこの料理に使う濃厚な出汁ができ上っています。

時短を目的としたわけではありませんが、仕込みに使うガス台を空けることができ、オペレーション効率がよくなります。常日頃から限られたスペース、マンパワー、時間をどう使っていくかを考えないといけません。
三浦様:アラは驚くほどの量が出ますよね。3年前に飲食業界に入って、食材をどう使っていくかというのを見てきましたし、捨てる食材をできるだけ減らそうと取り組んでいるお店で働いていたので、そのコンセプトが私の中にも植えつけられています。今回作った、醤油を使った自家製調味料ではコーヒー豆を使用しましたが、以前勤めていたレストランでは、コーヒーの出がらしまでどうにか再利用できないかと検討していました。この自家製調味料は、液体の醤油を違う形で食べられたら面白いし、新しい発見があるといいなと発想したんです。醤油にいろいろと手を加えましたが、時間をかけて美味しさを凝縮した醤油は、そのまま使うのが一番だと私も思います。でも、限られた条件下で自分らしさを料理で表現するために、醤油はとてもありがたい存在なんです。

渡邊様:コーヒー醤油なんて、頭が固い人はなかなか思いつきませんよ。既に使ったものなどから新たな味、新たな価値を生み出すのは、近年取り組みが進んでいるSDGsの考えにも合致しますが、自分のお店だからこそ自由に活用できるんですよね。アラは食べるのに手間がかかったりして、お客様にお出しできないことも。でも、とても美味しいので修業時代からまかないには必ず出していましたし、その美味しさが認められて二次会の料理として出してもらったこともありました。
三浦様:食材はなるべく廃棄しないことを第一に、いろんな使い方を考えます。捨ててしまうものが実は一番美味しかったりする、そんなことが分かるように自分の舌を育てながら学んできた3年間でした。食材の産地に出かけて自分で収穫したりすることもありました。
渡邊様:産地に行けば食材への愛着がわきますね。カウンターでお客様に語れば、お客様にもより美味しく感じていただけます。その点は若いスタッフにも伝えています。
―今後チャレンジしてみたいことはありますか?
三浦様:「Maruta」を卒業した後に「noma Kyoto」にキッチンインターンとして参加しましたが、毎日が運動会本番のような、120%の力で取り組まなければならない雰囲気で、さらに、お互いに「Good Job!」と称え合ったり笑顔でハイタッチしたりするような、LOVEに満ちた環境でした。そんな熱量がお客様に伝わるのだなと実感しました。勝手にのれん分けしてもらったつもりでLOVEを受け継ぎ、今後も大切にしていきたいと考えています。
また、自分は作り手なのか伝え手なのか? と自問する中で、佐賀県の「シェフインレジデンスプロジェクト」にも参加しましたが、お会いした作り手の皆さんは作ることと伝えることの境目などなく、自分の目指すものを追求し作り続けることで、自然と人にも伝えることができていると理解しました。圧倒された一方で、焦らない・辞めないという腹落ちもできました。

次世代の料理人には、例えば環境保護への視点や情報発信力など、広く横断的な力が必要になると思います。私ももっと知識と発信力をもたなければいけません。この先数年は料理人として現場で学ばせていただきたいと思っています。
渡邊様:私はミシュランの星をとりたいです。

ここ2年ほどセレクテッドレストランに選出されていますが、世間に認められるという意味では、やはり星が必要。集客という目的もあるけれど、何より、今私の店で働いているスタッフの独立を後押ししたいからです。星つきのお店出身であれば集客もつけてあげられるし、影響力はやはり大きいですから。それをかなえるためのお店づくり、パフォーマンス向上を目指していきたいです。
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【渡邊 雄二郎氏プロフィール】
赤坂 渡なべ
店主

高校卒業後、縁あって東京赤坂にある老舗割烹にてキャリアをスタートし、8年間勤め上げる。在籍中にはイタリア・トリノで開催された食のイベントで、日本料理のスローフードを広める活動も行った。その後、日本三大料亭の一つで5年間料亭の仕事を学び、2018年に自身のお店「赤坂 渡なべ」をオープン。2024年、ミシュランガイドセレクテッドレストランに選出。
■赤坂 渡なべ
〒107-0052
東京都港区赤坂2-17-59 エスポワール2F
18:00~22:30 (入店20:00)
月定休(その他不定休あり)
https://www.akasaka-watanabe.net/index.html
【三浦 真央子氏プロフィール】

東京調布市にある薪火料理レストラン「Maruta」に勤務。サービス兼PRとして従事した後、キッチンスタッフとして勤務。多摩地域の風土をリサーチしながら、野草採集と発酵保存食作りに取り組み、メニュー開発にも携わる。2024年からフリーになり、ポップアップレストラン「noma Kyoto」、サガマリアージュ推進協議会「シェフインレジデンスプロジェクト」、発酵デパートメント下北沢RichShihさんディナー会に参加するなど、精力的に活動している。
主な受賞歴
RED U-35 2023 ブロンズエッグ
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